直感のみの雰囲気小話です。
書きたい部分だけ切り取ってます。
甘さは全くありません。
竹くくです。










「自分が、わかんなくなった、」

ただでさえ真白い肌を、よりいっそう白くさせた兵助が、そんなことを言ってきたのは、半刻ほど前のことだった。




俺の知る限り久々知兵助と言う男は、人前で弱音を吐くようなことはしないし、言わない。それは、根底にある負けず嫌いがそうさせているのか、頑なな性格がそうさせているのか、はたまたい組気質のプライドなのか、俺にはさっぱりわからなかったし、理解できるとも思えなかった。だって、人間誰しも弱い部分は持ってるものだし、それは人として当然なのに、それをひた隠しにして、痛い部分も辛い部分も出さずにずっと持ち続ける。そんなの、自虐趣味もいいところだと思っているからだ。息が詰まりそうだし、なにより腹の裏側まで本音をぶちまけないと気のすまない俺には、到底考えられなかった。けれど、そんな俺の持論は、兵助には当てはまらないらしく、今の今まで兵助が弱音を口にしたところを俺は見たことがなかった。俺の知っている兵助は学園で過ごした五年間のみだけれど、少なくともその五年間で、兵助が「辛い」と声に出したところを見たことは一度もなかった。

その兵助が、助けを求めている。常に一人で立ち続け、誰にも頼らない。そんな姿勢をとる兵助が、この俺を。

「ハチ、俺、すげー、つらい」
「うん」
「どうしていいのか、わかんないんだ」

泣きたいのに、泣けない。
そう言って震える兵助の肩を、俺は抱きしめた。それこそ、捩じ伏せたら簡単に折れてしまいそうなほど、脆い。

元来、俺より線の細い兵助だが、それはあくまでも「俺よりも」が大前提だ。たとえば、女と見間違えるかといわれれば否だし、男としてそれ相応の骨太さは持っていた。それに、横幅だけで言えば三郎のほうがよっぽど細かったし、薄っぺらい。俺よりも華奢だけれど、それなりの体格をしていたはずの兵助。なのに、今はそれが嘘のように弱弱しく、常の他人を寄せ付けない凛とした強さは、欠片も感じ取れなかった。

兵助の背をぽんぽんと叩く。母親が子供にしてやるようなその所作を、兵助は嫌がるかと思ったけれど、意外なことに素直に受け入れたらしい。そのままぐりぐりと顔を押し付けてきた。相変わらず、表情は読めなかった。

「俺、元気出せ、しか、言えないけど」
「………」
「…力になりたいって、思ってるよ」

何があったんだろう、と思う。
テストで成績が落ちたときも、演習で三郎に伸されたときも、兵助はこんな風にならなかった。むしろ、「次は負けない」と静かに闘志を燃やしてたくらいだ。自分の弱さにここまで落ち込むとは、考えられなかった。
だとしたら、ここまで弱っている原因はなんだろう?
考えたって出るわけのない答えばかり、頭の上で回り続ける。かといって聞くこともできず、俺はただ背中をぽんぽんと撫ぜることしかできなかった。




だから、泣くな






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2011/10/30


2011/8/22の日記より救済





title:確かに恋だった



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