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ワンクッションという名の注意書き。
※11/25に日記にあげたものです
※にょたパロです
※高校生設定です
「善法寺、」
形のよい唇から紡がれたテノールに、はっと睫が揺れた。 首だけで振り返れば、そこにいたのはクラスメイトの食満くんだった。彼は居心地が悪いのか、視線を四方八方に振りまいている。
放課後の廊下は閑散としていた。窓の外は夜のカーテンがかかっていて暗い。 普段ならこんな時間まで学校に残ることはなかった。これといった部活にも入ってない僕は、授業が終われば自由の身で、例えば保健委員の当番だったり、日直の日なんかは少し遅くなったりするけれど、それでも夕方のチャイムがなるような時間には校門を潜っている。基本的に帰宅は早いのだ。今日のこれはイレギュラーで、授業でぼうっとしてた上に宿題も忘れて、貴重な放課後を先生のお叱りと罰という名のプリント整理を命じられる羽目になった。とことんついてない。そして、気がつけばこんな時間だった。
食満くんの髪は、しっとりと濡れている。外は冬の気配を滲ませていて少し肌寒いのに、彼は薄着だった。そういえば、部活とかやってるんだっけ。何部だったのか、はっきりとは覚えていないけれど、こんな時間まで大変だなぁと思う。心の中でひっそりと、おつかれさまです。と言った。
「なにか、用かな?」 「…残ってるって、聞いたから」
先生に。と小声でつけたす。
ふぅん。そっかぁ。それでわざわざ、ここまできたんだぁ。
そんな事を思いながら、はたと気づく。僕が残ってるから、食満くんが来るって理由がさっぱり見えないことに。 僕と食満くんの関係はただのクラスメイトだ。それもよく言ってクラスメイトってくらいの関係。ほとんど会話もしないし、挨拶だって片手で足りるくらいしか交わしていない気がする。そんな彼が?
「なんで?」
よくわからない、と平坦な声が口を滑った。彼は苦虫を潰したような顔をして、「暗いのに、危ないじゃないか」とぶっきらぼうに言った。
僕は食満くんが苦手だった。キッとつりあがった目は鋭くて高圧的に思えたし、大きい声も心臓に悪かった。それに、住む世界だって全然違う。どこにでもいるような、ううん、うっかり存在を忘れられても問題なさそうな僕と違って、彼は常にクラスの真ん中にいる。まぶしくて、すごく遠い存在だ。今だって、別次元の人みたいに見える。 僕のことなんかを気に掛けてくれる彼は、見かけよりずっと優しいんだなと思う。だけど、僕とは違う世界の人なんだと思うと、到底甘える気にはなれなかった。
「別に平気だよ」 「平気じゃねぇって」 「子供じゃないから、大丈夫です」
お気遣い、ありがとうございました。 そういって頭を下げて、強制終了させる。何か言いたげな彼に背を向けて一歩踏み出す。二歩目を踏み出したところで、手首を思い切り掴まれた。
「…な、」 「大丈夫なのは、わかった」 「………」
なら、この手を離してくれ。 手首から伝わる体温はひやりとして冷たいはずなのに、そこから侵されるようにじわじわと熱い何かがこみ上げてきた。胸の奥がじくじくと痛み出す。 人気者の食満くんと、地味な僕。こうして近くにいるのも申し訳ないくらいなのに、こんな風に触れられたらもうたまらない。やめて、やめてよ。離してよ。僕にかまったりしないでよ。優しくしないでよ。勘違いさせないでよ。 何もいえなくて、自分の爪先だけを見つめる。食満くんがすうっと息を吸ったのがわかった。
「でも、俺が大丈夫じゃない」 「は、」 「俺が、一人で帰したくないんだ」
彼の拘束が、より一層強くなる。ぎゅうっと握られた手首が痛くて、熱くて。でもそれに負けないくらい自分の頬も熱かった。
きっかけスイッチ
了
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2010/11/25
title:確かに恋だった
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