冒頭からやらかしてます。

長次にストイックなかっこよさを求めるお嬢さまには、あまりおすすめできません。
かなり欲望丸出しでアレな感じです。(すみませんすみません)

※四歳児の二人もいます。






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すだれ越しにこぼれる緩い朝日が瞼を叩く。深夜を潜り抜け、朝の訪れを感じるこの時間、長次はいつも自己嫌悪の塊だった。

今日こそは絶対、見ないようにと思っていたのに。

夢は欲求不満の表れだとは、誰が言ったのか。まさしくその通りすぎて、溜息が止まりそうもない。それでも、絶対に嫌かと詰め寄られたら首を縦に下ろす自信などなかった。その裏腹さと本能に忠実な自分に心底嫌気がさしてくる。
それもこれも全部、夏場だからって、薄着で部屋に上がりこんでくる小平太が悪いんだ。

手前勝手と思いつつ、そんな言い訳が頭の中をぐるぐるする。大きめのTシャツにショートパンツという出で立ちが定番の小平太は、幼馴染とはいえ男の部屋に訪れるにはあまりにも無防備だった。シャツの裾から伸びる日に焼けた小麦色の腕と、存外真白い内股。そのコントラストがやらしくて、見てはいけないと思いつつ、目が離せなかった。

だからあんな夢を見てしまったんだ、と自分を正当化して、両手を広げて布団へ逆戻りする。枕に顔を埋めてぎゅっと目を瞑れば、すっかり焼きついてしまった夢の続きがあれよあれよという間に蘇っていった。



頼りない薄着に手をかけて、生まれたままの姿に拵えると、白くて、それでいて柔らかい内股に手を這わす。滑らかな肌の感触を確かめるように、何度も何度も辿った。そのたびに、零れる熱い吐息が首のあたりを擽って、たまらない気持ちがメモリを上げていく。

声を耐えるように噛み締めた唇。「そんなにしたら、切れる」と、柔く親指の腹で撫でる。ゆっくりと開いた唇の奥に、艶かしい赤がうつって、体の熱が一気に上昇した。
堪えきれず、小平太の膝裏に手を伸ばすと一気に抱える。少しずつ、でも無遠慮に進入した彼女の内は、柔らかくてあたたかくて、しあわせで満たされていく。早く動いて吐き出してしまいたい。なのに、じれったいくらいの気持ちよさをいつまでも感じていたいと思った。

布団に縫い付けられた小平太も浅い呼吸を何度か繰り返している。ずっと閉じられていたまぶたがぱちりと開くと、彼女はゆっくりと笑った。そして言った。幸せだ、と。



そんな風に初めて小平太を夢の中で汚した日。長次は慌てて飛び起きた。全力疾走をしたあとみたいに心臓がばくばく悲鳴をあげる。急いで視線をめぐらせたけれど、ベットにも部屋のどこにも小平太の空気なんてなかった。
今までのあれが全部夢なんだとようやく理解して、頭から冷水を掛けられたような気分に染まる。ぞわりと粟立つ。

なに考えてるんだ。あんな夢見るなんて。

起きたところで、内容なんてさっぱり忘れてしまえたらよかった。でも実際は克明に覚えていて、欲情にまみれた表情やら、恥ずかしそうに顔をそらす仕草やらが、まぶたの裏に張り付いてる。
頭は冷えてるのに、体は妙に熱くて、でもギリギリのところで情けない事態は回避してて、ホッとしつつも猛烈に切なくなった。




小平太を穢してしまった。そんな罪悪感だけが腹の奥にぐずぐずと残っている。いや、実際言い訳のしようもないくらい脳内で犯してしまったのだけれど。
言わなければバレないそれが本気で申し訳なくて、誰が聞いてるわけでもないのに「すみませんでした。」と床におでこがくっつくくらいの土下座をした。

大好きな子を夢の中で存分に可愛がる。男の生理現象と言ってしまえばそれまでだけれど、それでもやはり罪悪感は拭えない。けれど、どれだけ願ったところで、理性を手放した後の眠りの先のあれこればかりは、自分の意志ではどうにもならなかった。

そうして本日も長次は、自責の念にたっぷりと浸りつつ、朝を迎える羽目になったのだ。

はぁ、と深い溜息を吐くと、頭を冷やすために窓を開ける。南向きの大きな窓の向こう側に見えるのは、自分の住まいと同じ団地の群れだ。その一角が長次と小平太の住まいだった。





長次と小平太が初めて出会ったのは、四歳の春だった。

明後日から二年目の幼稚園。今年からお兄ちゃんになるね。下の子に優しくしてあげるんだよ。なんて、母親に頭を撫でられて、生まれて初めて出来る後輩という存在に、ちょっと大人になったような気持ちでいっぱいだったその日、長次の住む団地に小平太の家族が引っ越してきたのだ。

ベランダの柵越しに見える大きなトラック。そこから何個も大きなダンボールやら家具が運び出される様子に興味津々だった。食いつくように眺めていると、洗濯物を干していた母親が「うちの真上に越してくるんだよ。」と教えてくれた。

お友達が出来るといいなぁ。そんな長次の願い通り、上の階の新しい家族には同い年の女の子がいた。

くるくるとよく動くどんぐり眼に、ぷくっとした頬っぺた。頭のてっぺんで結わえたポニーテールがふわふわと揺れて、まるで綿菓子のようだった。林檎みたいに真っ赤な頬っぺたが、いつか母親と一緒に観た映画のお姫様にそっくりで、幼心に庇護欲が湧く。
守ってあげたい、と思った。けれど、長次の心配もなんのその、三年保育の輪の中に飛び込んだと言うのに、小平太の適応能力はすさまじかった。人見知りなど一切しないのだろう。長次の心配をよそに、登園初日から友達を作ったし、あれよあれよという間に園内の人気者にもなった。

輪の中心には、いつも小平太がいた。室内で絵本を眺めてばかりの自分とは大違い。小平太の周りでは常に笑顔が咲き、その楽しげな雰囲気が幼心にひどく眩しかった。

まるで正反対ね。と、互いの両親が笑う。その言葉通り、長次と小平太は何もかもが違った。内向的と社交的。インドアとアウトドア。長次がお遊戯室でクレヨン片手にお絵かきに夢中になっていれば、小平太はお外で友達とドッジボールやら竹馬を楽しんでいる。
同じ団地の真上と真下。互いの両親もウマが合うようで、接点は誰よりも多かったけれど、正直あまり話もしたことがなかった。


仲良くなったきっかけは、蝉が鳴き始めた初夏のことだった。

母親のお手伝いで干してある洗濯物を取り込もうとベランダに出たときだ。どこからか子供の泣き声がした。わんわんと泣く声。一体どこからするのだろう。どの家の子が泣いているんだろう。声の主を探して、きょろきょろと辺りを見回す。けれど、よくわからなかった。

ぎゅっと瞼を閉じて、一生懸命耳を澄ます。どうにか聴き取ることが出来た泣き声は、真上からのような気がする。なにより、「おかあさん、」と涙混じりに呼ぶその声には聞き覚えがあった。





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表情に出さないまま、こっそり落ち込む長次を余所に、小平太はケラケラと笑った。

「いるわけないじゃん」
「…………」
「レンアイするより、長次とこうしてる方が楽しい!」

それは、好きってことじゃないのか。一瞬。ほんの一瞬だけれど、そう勘違いしてしまった。おまけに猫がじゃれるみたいに背中から抱き着かれて、心臓が止まりそうになる。

男とか女とか、そういうものの見方をしていない小平太の中には、きっと恋愛感情そのものが存在していない。あるのは人間愛で、長次に向ける好きも家族愛の延長だ。そのくらいちゃんとわかっているつもりだった。そもそも、最初に好きな人など「いない」とはっきり告げられている。なのに、「長次のこと好きだし、一緒にいると落ち着く。」なんて言われて、平常心が木端微塵に吹き飛んでしまった。

自分の腹のあたりに回った小平太の手のひらに、自分のそれを重ねる。恋人がするみたいに指と指を絡めると、触れ合った部分から、心音がばれてしまいそうだと思った。

「ちょうじ?」

少し舌足らずな声で、小平太が長次の名を呼んだ。振り返ると、肩越しに視線がかち合う。何もわかっていない子供みたいな無垢な瞳に、己の姿が映りこんでいた。

言ってはいけない。言うべきではない。
小平太の双眸に映る自分を眺めながら「やめろ」と冷静な自分が訴える。けれど、繋いだ手のひらが振り払われる気配はなくて、パーソナルスペースに踏み込んでも許される事実に、決心したように絡めた指に力を込める。

「……好きだ、」

突然の告白に小平太が首を傾げる。「あー、はいはい、私も好きだよー。」と、友情の再確認みたいなノリで長次の肩におでこをくっつけてくる小平太に、目の前が真っ赤になる。

どうしてわかってくれないんだ。

自分だって小平太の気持ちなんて何一つ掴めていないくせに、そんなエゴイズムに全身を支配される。
絡めていた指を離すと、二の腕を掴んで強引に床に押し倒す。馬乗りになって、手首を拘束して、小平太の腕の下に置いたこの光景は、今朝見た夢そのままだった。

唐突すぎる長次の行動に、小平太が目を白黒させているのに気づいていたけれど、見ないふりをして再び同じ言葉を重ねる。衝動的ではあったけれど、冗談でも悪ふざけでもない。お前が好きなんだと告げる。

幼馴染という枠から抜け出して、小平太の特別になりたかった。たった一つの恋人という座が欲しかった。遠くで蝉の鳴き声がするのをぼんやりと聴きながら、泣きそうな気持ちでいっぱいだった。





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シャワーは流れ続けたまま、二人をどんどんと濡らしていく。うなじを吸い上げ、しっとりと濡れた肌の感触を存分に味わう。

ぺたりと張り付いたシャツの上から、横になっても主張の激しい胸に手を伸ばすと、やわやわと触れる。大きく開いた襟もとに顔を寄せ、谷間を吸い上げると、小平太が熱い吐息を漏らした。
それに気をよくした長次は、出しっぱなしのシャワーを止めると、濡れて重くなったシャツを脱ぎ捨てた。そんな長次に、小平太の視線は釘付けだった。


中学までは強制だった所為もあって、運動部に所属していた長次も、高校に上がってからは一切やっていない。なのに、覆う筋肉はしっかりとついていて、どこからどうみても完成された男の体だった。普段、校則通りきっちりと着こんだ制服の下に、こんな逞しい体があったなんて。

ぶわっと顔が熱くなる。部室からあぶれた男子が、よく校庭の片隅やら体育館の脇で着替えている場面に遭遇したことはあるけれど、こんなにも見ていられない気持ちになったのは、初めての出来事だ。


すっかり狼狽えている小平太を余所に、長次は涼しい顔のまま再び馬乗りになると、小平太のシャツを捲り上げた。下着も上にずらして肌蹴させると、相当恥ずかしいのか、そっぽを向いた小平太が「あんま、見るな、」と弱弱しい声を上げた。ぎゅっと瞑った目元が痛々しい。
見えるか見えないか、際どい格好をしていたことなんていくらでもあるのに、この反応は意外だった。素直に、可愛いと思う。





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がっつり風呂場でやってます。(土下座)