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「君のか細い肩を〜」の続きです。
にょた、R18です。
大丈夫な方はスクロールで!
獣のように四つんばいで覆いかぶさった状態。腕の下にいる細い体に触れるか触れないか、そんな距離になってようやく俺は我に返った。
頭に血が上っていたのだろうか。どうしてこんな状況になったのか、瞬時に思い出すことが出来なかった。ただ瞬間的に理解したのは、仙蔵を押し倒しているこの状況だけだった。
俺は一体、何をしているんだ。なんで、こうなったんだ。
どこか冷静な自分が、自分を見下ろすようにそう呟く声が聞こえる。すぐにどいてやらないと。そう思うのに、体は全く言うことを聞かなかった。
そもそも、つい数分前まで、二人で並んでDVDを眺めていたはずだった。試験勉強に勤しむ俺をよそに、勝手に上がりこんできた仙蔵が、これまた勝手に映画鑑賞を始めたのだ。
日がかげるには早い時間なのに、カーテンを引いて光を落として。完全に映画鑑賞モードに入った室内は暗かったし、何より仙蔵の無言の圧力があった。一緒に観ろ、と目で訴えてくる仙蔵に、この俺が逆らえるはずない。そうして両手を挙げて降参のポーズをとったのが一時間ほど前の話だった。
いつもながら、仙蔵の趣味はとてもいいとは言えない。残酷なスプラッター映画なんてみても、こちらは「きもちわるい」以外の感情なんて生まれないのに、横を見れば食いつくように画面を眺める仙蔵がいて、本当にこいつの趣向はわからないと思った。内容のない血みどろの映画は次第に意識からフェードアウトしていき、俺の興味は隣にいる仙蔵へと移った。ちらりと盗み見れば、彼女の細く頼りない肩と、鎖骨のラインが飛び込んできて、心臓が大きく脈打つ。初夏だからか、気の知れたご近所だからか、他人の目のない密室だからか。薄いキャミソールとデニムのミニスカートという安心しきった服装は、日に焼けていない真白い肌をありありとさらけ出していて、思春期の男には酷く目に毒だった。
見ちゃいけない。そう思うと余計に見たくなるのが、男心だと思う。どんなに理性を働かせたって、結局は絶対的な本能には勝てない。どうしようもない人間だと落ち込みつつも、視線は上から下に。やばい、見たら絶対にやばい。ちゃんとわかっているはずなのに、首筋から鎖骨に始まり、徐々に目線が下がる。短いスカートから覗く柔らかそうな太ももまで到達したところで、耐え切れなくなって口元を押さえてしまった。
やっべぇ!まじでやべぇ!!
顔も熱いが、別のところにも熱が集まり始めてしまった。欲や衝動が、弾丸のように体を駆け巡る。瞬時に目を瞑って頭の中で数式唱えたけれど、もう遅かった。数字の合間合間で、さっき目に焼き付けた柔そうな白い肌や、布地との境の際どい部分がさっと駆け抜け、体の熱は冷めるどころかますます酷くなってしまった。
観ている映画のタイトルは昔のものだから、そう長くはやらない。あと三十分かそこらには終了してしまう。今は薄暗くてさしてわからないけれど、明るくされたらアウトだ。欲情しているのが一発でわかってしまう。
幸いなことに、横にいる仙蔵はそんな俺の変化には気づいてはいない。相変わらず、まっすぐ目の前の画面だけを射抜いている。俺はこれ幸いと、気づかれないように、そうっと距離をとった。あたたかさを感じるくらい詰めた距離にいるから、余計に意識してしまうんだ。そう思っての行動だった。
「おい、どうした?」
やっと枕ひとつ分、距離をとったところで、こちらに気づいたらしい。仙蔵が、不機嫌丸出しの声で、こちらを睨んできたのだ。
「べ、別に…」
「なら、なぜ逸らす」
うっかりそらした視線に、非難が集中する。
仙蔵を直視できなかったのは、腹の底に残った熱のせいだった。薄暗い部屋に浮かび上がる白い肌や、剥きだしの肩口、隙だらけの胸元。改めて見てしまったら、今度こそ、止められそうにない。細い項に手を回して、唇に噛みついて、衝動のままに押し倒してしまうに違いない。そんな自分がありありと想像できて、体の中心は熱いのに、背中には冷や汗がにじんだ。
絶対に絶対に、いま仙蔵は見れない。それだけははっきりしていた。
「本当になんでもない!」
「ならこっちにこい。そんなところじゃ、観にくいだろう」
そういって仙蔵は、腕を伸ばして俺の袖口に手をかける。座ったまま、こちらに手を伸ばしたせいで、女を主張する部分が更にあらわになった。前かがみになった分だけ、曝け出された胸元は、薄暗い室内でもはっきりと俺の目に届いた。そんな、警戒心が一ミクロンも存在しないかのような、安心しきった仙蔵の様子に、カッとなる。
二人きりで、密室で、薄暗くて。その状況だけで、俺は色んなものを飛び越えてしまいそうなのに、なんでそんなに無防備なんだ。何の危機感も感じないのか。男として全く意識されていない現状に、熱とは違う重い何かが腹の底に溜まり始め、熱とともにとぐろを巻き始める。
「おい、文次郎」
こっちにこい、と掴まれた袖をより強く引かれる。バランスを失った体は徐々に傾き始め、同時に視界が揺らいだ。あ、まずい。と思った時には遅かった。そのまま覆いかぶさるように、仙蔵へと倒れこんでしまった。とっさに手が出たおかげで、ぶつかる事はなかったし、痛くもなかったけれど、経緯云々は別にして俺は仙蔵を押し倒してしまった。その事実に、俺はかつてないほど狼狽えた。バッと開いた視界全部が、隙だらけの胸元で埋め尽くされて、心臓がぎゅうっときつくなる。熱くなる。俺の腕の下、借りてきた猫みたいに大人しく、びっくりしたような、困ったような複雑な表情で、それだけで俺の頭はショートしそうなほど熱くなった。なのに。
「もんじろう」
真横に線を結んでいた唇が、俺の名を刻む。白く折れそうな指が、また俺の服の裾を引いた。その瞬間、耐えに耐えていた線がぷっつりと切れ、そして俺は、噛みつくように仙蔵の唇を奪ってしまった。
キスをしたのは、初めてではない。そっと触れるだけなら、もう何度だってある。けれど、強引に口内を犯したのは初めてだった。差し入れた舌で、仙蔵のそれを絡め取る。乱暴に吸って、歯列をなぞった。もっと大事に、優しくしたかったのに、手順も何もかも吹っ飛ばして、本能のままに貪る。仙蔵の肩が、強張るのがわかった。強く握り締めたままの白い指が痛々しかった。
俺の性急な行動に、仙蔵が目を白黒させているのをいいことに、ベットに上げてそのまままた押し倒す。標本の蝶のように、ベットに縫い付けられている仙蔵の睫が、不安げにはためく。瞬きのたびに揺れる瞳は何か言いたげなのに、まっすぐに結ばれた唇から言葉が紡がれることはなかった。
そこまでして、ようやく我に返った。じわりと汗がにじむ。初夏の生ぬるい空気が重くまとわりついてきて、気持ち悪いと思った。
今ならまだ引き返せるかもしれない。しょうがないって顔を貼り付けて、もうそんな格好するなって小突いてやって。これを冗談にする事だって、出来るかもしれない。体の方は冗談では済まされないくらい熱くなってるけど、それは右手とティッシュのお世話になれば何とかなる。だから仙蔵から退いて、さっさと家に帰そう。それが一番だ。
頭ではそれが最善だとわかってるのに、このまま抱きとめて貪りたい気持ちと、この急展開はまずいって気持ちが、天秤に乗ってゆらゆらと動く。どっちつかずな気持ちのまま、指一本動かすことも出来ずただ仙蔵を見るばかりだった。
シーツの上に投げ出された仙蔵の腕が動く。咄嗟に、殴られる!と身構えたけれど、衝撃はいつまでたっても来なかった。かわりに、控えめに伸びてきた手が、俺の二の腕あたりを掴む。「いいから。」と言う。そうっと閉じられたまぶたに、心臓が焼ききれるかと思うほどちりちりと苦しくなった。
テレビから流れる映像は相変わらず残忍なもので、耳に届く音声だってムードの欠片もない。
初めてはきちんと思い出に残るように、と思っていた。それなりの場所で、順序を踏んで、硝子細工を扱うように大切に大切にしたかった。留三郎あたりが聞いたら乙女趣味で気持ちわるい。なんて、苦い顔をされそうだけれど、仙蔵との思い出はなんでも大事にしたかった。生まれてからずっと、隣にいるのが当たり前みたいに育って、二人だけの大事な思い出なんて、実は指を折るほどしかない。だからせめて、これからは。そう思っていた。なのにそれが、このざまだ。うっかり流されて、馬鹿だなあと思う。自嘲気味の笑いがこぼれる。けれど、もう戻ることは出来なかった。
柔く弾力のあるスプリングは、少し身じろぐだけでも悲鳴を上げる。
細い項に指を這わせて、肌理の細かい肌をそうっと吸う。仙蔵の口から切なげな息が漏れる。頬が徐々に桃色に染まり、その嬉しい変化に口角が上がった。
「嫌だって言っても、もうとまんねえからな」
最終勧告を言い放つと、仙蔵は、はあっと大袈裟にため息をついて、
「…お前は、本当のあほだな」
と言った。腕を回されて、あ。と思った時には、ぬるい感覚に包まれていた。どちらのものかわからない吐息が交じり合う。薄く口をひらくと、仙蔵の舌が控えめに伸びてくる。おっかなびっくり探るように口内を撫でる感覚が、常からは想像できないくらいしおらしくて、むずがゆかった。
物足りなくてこちらからも絡めとってやる。敏感な裏側を撫でてやると、ふうと甘い息が漏れて、それだけで体の芯がとろとろにとろけそうになった。
ぐずぐずにこぼれそうな理性を立て直して、ゆっくりとてのひらを滑らせる。床に布地を落とした時は、息がとまるかと錯覚するくらいの衝撃に、全身が襲われた。常に日にさらされている部分もそうだけれど、首筋とか日の当たらない地の肌も、恐ろしいほど白かった。それは、薄暗い室内でもはっきりとわかるくらいで、柔くて、白くて、壊れそうだと思った。
「………あまり、見るな」
恥ずかしそうに身をよじって、必死に隠そうとする姿に、ますます下半身がずんと重くなる。自身の肩を掴む手を強引に剥ぎ取って、再びシーツへと縫いつけた。薄い腹も、形のよい小振りな胸も、全てが俺の前に晒される。耳まで真っ赤に染めて、いやだ、とか、恥ずかしい、とか。羞恥で僅かに掠れた声も、潤んで濡れた睫も、俺の欲を増幅させる材料にしかならなかった。
「……やっべー…、すげえ、興奮する」
簡単に指が回ってしまう細い手首も、ちっとも柔らかさがないと気にしていた小さめな胸も、きゅっと引き締まった腰のラインも。仙蔵の全てが愛おしくてたまらなかった。恥ずかしいところも、汚いところも、乱れるところも、余すことなく全てが見たいと思った。焦がれてたまらなかったものを目の前に差し出されて、俺は夢中で貪る。薄い腹をひと撫でして、柔らかい部分に手を這わす。透き通るような白い肌を強めに吸って、痕を落とす。指を、舌を動かすたびに、唇をかんで声を耐えるしぐさに、まぶたの裏がちかちかした。
仙蔵の全てを味わう。溢れた蜜を掬って、密やかな部分に、そうっと指を潜り込ませる。男を知らないそこは、指一本でもきついと思うほどに狭かった。傷つけないように、ゆっくりと広げるようにほぐしていく。指で柔い締め付けを味わいながら、くちびるで柔らかな肌を思う存分に可愛がった。
拓かれる痛みと快感に、仙蔵の眉が寄る。薄く涙を浮かべながら必死に声を耐える姿を、至近距離から眺めていた。快感の混じった吐息の温度。かみ殺すような声。意志の強い瞳は、すっかりとろけていた。
こんなにも愛おしくて、可愛い。でも、熱い息を吐く姿は酷く艶っぽくて、普段の校則通りの制服を着た姿からは、とても想像が出来ないほど淫らだった。そのギャップは、俺の欲を殊更掻き立てる。好きだ、好きだ、好きだ。溢れる気持ちは決壊したダムのようで、もう塞き止めることは出来なかった。
「仙蔵、」
未知の行為に怯える仙蔵の肩を撫で、名を呼ぶ。口付けを落とす。大丈夫、と言い聞かせるように、何度も、何度も。
細い腰をぎゅっと抱え直して、ゆっくりゆっくりと中に押し入る。あたたかくて、狭い。ちかちかと火花の散るほどの快感に、おもわず体ごと全部飲み込まれそうになった。
洗い立てのシーツの上に転がったときのふわふわした気持ちと、プレゼントの包みを開ける瞬間のような幸福感に、涙がこぼれそうになる。すごくあたたかくて、すごくすごく、しあわせだった。
昔の夢を見た。懐かしい夢だった。夢の中の仙蔵は、中学の頃の制服をまとっていて、教室の一番後ろの窓際で、文庫本を読んでいる。窓の隙間から流れ込む風に、長いストレートがさらさらと揺れる。文字を追う瞳を縁取る睫は、恐ろしく長く、それが瞬きのたびに揺れ、俺の心に少しずつ火を燈した。すごく綺麗で、思わず見惚れてしまう。ああ、そうだ。俺は時々こうやって、仙蔵を見ていたんだ。誰に言うわけでもなく、両手を挙げて白状した。
幼い頃からずっと傍にいた。当たり前みたいに隣を歩いて、色んなものを分かち合って、将来だって一緒で。それがずっと続くと信じていたのは、中学に上がる頃までだった。
不意に、文字を追うことに徹していた仙蔵の顔が上がる。本を閉じ、目の前に現れた相手に、嬉しそうな笑顔を見せた。相手の男の表情は、そう変わらない。何を考えているかわからない、感情の掴めない顔をしている。なのに、隣にいる仙蔵は酷く嬉しそうで、そんな顔をさせられる長次が酷く妬ましいと思った。さっきまで幸せいっぱいだった気持ちが、どんどん黒く薄汚れていくのを感じる。すごく嫌だった。
仙蔵のこの笑顔を見れたのは、俺にこんな笑顔を向けてくれていたのは、いつ頃までだったか。少なくともここ数年はない。心の奥がじくじくと痛んだ。仙蔵は笑って話をしている。けれど、その声はこちらには届かない。俺は教室の隅から二人を見ることしか出来なかった。これは夢だとわかっているのに、窓際で内緒話をする二人に、俺は馬鹿みたいに傷ついた。
長次は無口でとっつきにくいけどいいやつだ。友達だ。けれど、仙蔵の隣を当たり前のように占拠するヤツだけは、どうしても好きになれなかった。悔しくて、憎くてたまらなかった。
長次の隣にいる仙蔵は、俺や留三郎といるときとは全然雰囲気が違った。大人っぽさや、凛とした表情は変わらないけれど、そこから可愛らしい女の子の部分がはらはらと零れ落ちている気がしてならない。悔しいけれど、すごく可愛いと思った。
「長次といる時の仙蔵って、ちょっと違うよなあ。」
ぽろっと零した留三郎の言葉に、頭のてっぺんから冷や水を浴びせられたように、一気に冷えていく。ずっとずっと、思っていたけど、避けていたこと。葬り去ろうとした可能性。「恋でもしてんじゃね?」と、留三郎は言った。
この先、仙蔵を守るのも、生涯を共に歩むのも、俺だと信じて疑わなかった。俺がそう思うように、仙蔵だってそうだと思い込んでいた。恋をしないわけないじゃないか。俺が仙蔵に焦がれるように、仙蔵だって誰かに惹かれるに決まっているのに。己の馬鹿さ加減に、ため息しか出なかった。
まだ、好意かもしれない。でも、恋になるかもしれない。
このまま黙っていれば、きっと仙蔵は両親が望むように、俺の元へとくるのだろう。自由な恋愛を捨てて、強要されたそれを当たり前だと受け取って。でもそれはきっと、仙蔵の縛るってことだ。仙蔵の意思じゃない。欲張りでわがままな俺は、そんなのはまっぴらごめんだった。寄り添っていてもそこに心がないなら、そんなものは丸めて屑籠に一直線だと思った。書面の契約だけじゃない、仙蔵の全てが欲しかったのだ。だから、おれは。
夢から覚醒する。ぱっと開けた視界は塗りつぶされた黒一色で、一瞬、現実と夢の境目がはっきりとしなかった。噛み締めたあたたかな気持ちと、夢の懐かしさと、もやのかかった感情がまぜこぜになる。なんで、あんな夢見たんだろう。あんな気持ち、思い出したくなかったのに。今のしあわせに、浸っていたかったのに。胸の奥が鉛を飲んだように重くて、とにかく息苦しかった。
シーツに散らばる髪をそっと撫でる。行為に疲れきった仙蔵は、ぴくりとも動かなかった。
甘えたな飼い猫のように、俺の胸に額をくっつけて、すやすやと寝息を立ててる仙蔵を、丸ごと強く抱きしめた。
肩や頬にさわる髪の感触。腕の中にあるあたたかな体温、肌触りに、さっきまでの夢と、現実をはっきりと自覚する。
俺は、全部を手に入れた。仙蔵の気持ちも体も、全部もらった。この腕に抱きとめて、快感に落ちていく仙蔵を余すことなく味わい、受け入れてもらった。なのに、まだ埋まらない部分があった。
「…………なあ、仙蔵、」
長次のこと、好きだったのか?
ずっと気になっていた言葉は、声にならないまま、腹の底へと沈んだ。ずっと、聞きたいと思っていた。けれど、肯定されるのが怖くて、やっぱり聞くことなんて出来なかった。
そしてしばしの戯れを
了
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2011/7/4
title:確かに恋だった
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